
教員としてできること──「保護者の更年期」に気づく視点と
現代の教育現場は、生徒だけでなく保護者との関係構築にも、多くの時間と労力を要するようになってきています。
特に、高校や大学など、子どもが思春期・青年期に差しかかるタイミングでは、保護者の世代がちょうど「更年期」を迎えていることも多く、家庭の中で起こるさまざまな変化が、学校生活にも間接的な影響を与えることがあります。
更年期障害は女性だけではなく男性にもありますので、家族が大きなストレスを抱えていることになります。
保護者の態度や言動に困惑する場面に直面した経験のある教員は少なくないでしょう。
「突然怒鳴られてしまった」「感情的な電話が何日も続いた」「生徒本人は問題ないのに、親の不安が非常に強い」──そんな場面に出会ったとき、私たちはどう対応すればよいのでしょうか。
また、大学生に更年期の講義をすると「もっと早くに更年期のことを知りたかった」「義務教育の中で更年期のことを教えてほしかった」「知っていれば親に反抗せず、もう少し優しくできたのに・・」という感想が多く寄せられます。
生徒自体も親の体調の変化について知りたいというニーズがあります。
教員の自分には関係ないで済まされる時代ではなくなっています。
これからの教育現場でも、「保護者の更年期」という視点を持つこと、そして教育現場全体の“健康リテラシー”を高めていくことが重要となるとなるでしょう。
「問題のある親」ではなく「サポートが必要な人」として
更年期とは、女性であれば閉経前後の10年間ほどに見られる、ホルモン変化による心身の揺らぎの時期です。
症状は人によってさまざまですが、ホットフラッシュや睡眠障害、不安感、集中力の低下、怒りっぽくなる、抑うつ傾向など、多岐にわたります。
加えて、家庭・仕事・介護など、人生の中でも大きな負担が重なりやすい時期でもあるため、知らず知らずのうちに心身が限界に近づいていることもあります。
たとえば、保護者からの厳しい言葉や感情的な言動があったとき、つい私たちは「厄介な保護者」としてラベリングしてしまいがちです。
しかし、もしかするとその背景には、保護者が「今まさに更年期による不安やストレスの渦中にいる」という可能性があるのです。
保護者自身も、それが更年期の影響だと気づいていないことも少なくありません。
だからこそ、教員側が「これは“攻撃”ではなく、“SOS”なのかもしれない」と見つめ直す視点を持つことが大切です。
教育現場における健康リテラシーの必要性
昨今、男女共同参画の流れを受けて、「月経や性に関する相談にも教員が対応できる体制づくり」が、国の施策にも盛り込まれています。
これは、教育現場が“身体やこころの変化”に関する知識を持ち、それを生徒支援に活かしていこうとする流れです。
その延長線として、保護者の更年期やライフステージへの理解も、今後ますます必要になってくるでしょう。
教員自身が「更年期」というライフイベントについて知ることで、保護者との関係構築だけでなく、自らのセルフケアや同僚との相互理解にもつながっていきます。
特に女性教員の場合、自分自身が更年期を迎えることもあるため、「教える側であり、当事者でもある」という感覚が重要です。
また、男性教員にとっても、職場や家庭での理解を深める大きな機会となります。
生徒にとっても、この時代のうちに健康リテラシーを身につけることは、その後の人生にとっても必要な力となるでしょう。
更年期を「子どもにも伝える」ことの大切さ
実は更年期の知識は、生徒にとっても大切な学びです。
親の言動の変化に戸惑っている生徒にとって、「それはお母さんやお父さんの身体の変化によるものかもしれない」と知ることは、大きな安心につながります。
思春期の子どもは、自分の内面の変化に戸惑いながらも、家庭の雰囲気にも敏感に反応します。
そんな時に「親が変わった」「家にいるのがつらい」と感じてしまう子どもたちにとって、更年期という概念を知ることは、自分を守るひとつの手立てになり得るのです。
保健の授業やホームルーム、あるいは外部講師を招いた講座などで、親世代の身体やこころの変化にふれる機会を持つことは、共感力や家族理解を育てる教育としても有意義です。
更年期に関する教育は、決して早すぎることはありません。むしろ、生徒にとっても将来を見据えた「ライフキャリア教育」の一部となり得るのです。
教員同士の支え合いと情報共有も鍵
保護者との関係にストレスを感じたとき、それを「個人の問題」として抱え込んでしまうと、燃え尽きや不信感、業務への影響が大きくなってしまいます。
場合によっては、離職につながりかねません。
だからこそ、教員同士でのケース共有や感情のアウトプットの場、管理職との相談体制、スクールカウンセラーなど専門職との連携が欠かせません。
「この保護者、最近少し様子が気になるね」
「更年期症状で辛いのかもしれませんね」
「私のときはこういう対応で落ち着いたよ」──そんなやりとりが、日々の支えになります。
また、外部の専門家(更年期ケアに詳しい医療職や講師など)とつながることも、心強い選択肢のひとつです。
教員・保護者・生徒への講義を通じて更年期への知識を共有することも意義があるでしょう。
自校の教員だけで抱えるのではなく、専門リソースと連携することで、より柔軟な対応が可能になります。
おわりに──「変化」を理解できる教室をつくるために
思春期と更年期──このふたつの揺らぎが、親と子の間で交差する時期。
そのどちらにも関わる立場にある教員は、まさに“変化の交差点”に立っている存在です。
生徒にとっても、保護者にとっても、そして教員自身にとっても、人生には揺らぎや変化の時期があること、それを知っておくこの重要性を認め実現できるのが教育現場です。
「保護者の変化に気づく」「生徒の不安に寄り添う」「教員同士で支え合う」
その一つひとつが、安心できる教室づくり、そして未来への教育へとつながっていくのだと思います。